ウルトラマラソンでは、後半にどう走るかが勝負を分けます。
今回の「みなの天空75K」は、3つの大きな峠が襲う山岳ウルトラ。
序盤は抑え、後半に勝負をかける──そんな作戦で臨みました。
結果はラスト10kmで区間18位の快走。
潰れかけた身体と心が、どう復活したのか?
この記事で、そのすべてを振り返ります。
2025みなの天空75K|後半に逆転したレース戦略と復活劇のすべて
「みなの天空ウルトラマラソン75K」とは?特徴・コース・完走率まとめ
みなの天空ウルトラマラソン75Kは、埼玉県皆野町を舞台に開催される山岳ウルトラマラソンです。コースは舗装路・林道・トレイルが絶妙にミックスされており、自然の中を駆け抜ける爽快感と、脚にじわじわとくる疲労感が同居します。
中でも象徴的なのが3つの大きな峠越え。それぞれに登り・下り・暑さの要素が絡み、ランナーの脚と心を試します。
累積標高は約1,464m、距離は公称約76.5km(GPS実測で76.28km)。
フルマラソンとはまったく異なる“耐久”の世界で、装備・補給・ペース戦略が結果を大きく左右します。
詳細なコース構成やエイド配置、戦略的な走り方については、2024年大会の記事でまとめています。
特に「前半35km・後半40km」という分け方は、本大会の攻略にとても役立ちます。
バナナぴろし
もっと知りたい方はこちら:
みなの天空ロード:ウルトラマラソン完全ガイド|75K・40K・35Kのコース攻略・完走率・体験談・GPX付き
75K・40K・35Kの全コースについて、標高・完走率・体験談・GPXデータまで網羅した大会完全ガイドです。
2025年大会の記録とレース分析|“潰れてから伸びる”ウルトラの真髄
2025年9月28日午前5:30。スタート地点の皆野町には、薄明るい朝日と肌寒さが漂っていました。
76.5kmの山岳ウルトラに挑むランナーたちの中で、私は「前半は抑えめ、後半に勝負」というプランでこのレースに挑みました。
ゴールタイムは8時間56分50秒(ウォッチ上の運動時間は8時間21分13秒):オートポーズ有。
総合順位:204人中35位、
男子部門:175人中31位、
50代年代別:44人中6位の結果を残すことができました。
レース中盤〜後半で大きな「波」がありましたが、最終的には復活し、ラスト区間で区間18位という強いフィニッシュができたことは、自分でも驚くような展開でした。
以下は、通過地点ごとの順位・ペース変化をまとめたリザルトデータです。
当日の戦略・気温・補給と合わせて振り返ってみましょう。
【序盤】
スタート〜A3(風布・日本の里
観光駐車場・20.2km地点)までは、2時間12分21秒/平均ペース6'33/kmで通過。
気温は17℃程度で走りやすく、脚にも余裕があり、全体の中ではやや控えめの「53位」での通過でした。
【中盤】
A3〜A5(皆野町役場・35.0km地点)では少しずつペースを上げ、区間順位23位と本格的な追い上げがスタート。
その後のA8(阿熊集落センター・49.7km地点)にかけては、急登が連続する山岳パートとなり、区間順位は68位までダウン。
この頃から右股関節・左足首に違和感が出てきて、精神的にも一度「折れかける」場面がありました。
【復活のきっかけ】
最大の山場「第3の山」(A8〜A9:秩父ワイン)では、区間91位まで後退。
しかし、ここで思い切って「少しだけペースを上げてみた」ことが転機となります。
走りながらフォームをコンパクトにまとめ、呼吸を深めると、身体が軽くなる感覚が戻ってきました。
「終わった」と思っていたはずが、心拍数・呼吸ともに安定していると気づいたのです。
【ラスト10kmの怒涛の巻き返し】
そこからは徐々にペースアップしながら順位を回復。
A10(チーズ工房)を過ぎてからは「これはイケる」と確信し、ラスト区間では区間18位でのフィニッシュに。
この最終10kmは、心拍数150bpm前後をキープしながら、平均ペース6'05/kmまで戻せました。
以下は、GPSウォッチ(COROS)の記録データです。
心拍・ピッチ・パワー・消費カロリー・累積標高などが確認でき、復活の要因を客観的に分析するヒントになります。
-
平均心拍数:
150bpm。長時間レースとしては理想的な有酸素ゾーンを維持。 -
平均ピッチ:
169spm。フォームの効率性と持続力を反映。 -
パワー出力:
149W。上り坂でも一定の出力で粘り切れた。 -
トレーニング負荷:
1405TL。かなり高い負荷。リカバリー必須の強度。 -
消費カロリー:
5512kcal。補給戦略の成否がタイムに直結する。
最後に、コースの高低差グラフです。
この3つの明確な“峠”が、ペース戦略を大きく左右するポイントになります。
「どこで粘り、どこで歩き、どこで回復させるか」を視覚的に確認することができます。
今回のレースを通じて感じたのは、「潰れてからがウルトラマラソン」という真理でした。
単なる完走を超えた、“自分との対話”や“粘りのドラマ”が凝縮された76.5km。
心が折れかけたときに、ほんの少しの前向きな一歩が、流れを変える力になる。
そんな感覚を、身体全体で受け止めた一日となりました。
【レース前半】飛ばさず、追わず、心拍と会話しながら走った35km
今回のみなの天空ウルトラマラソン75Kでは、序盤の戦略がレース全体の命運を大きく左右しました。
そのため、スタートから「飛ばさない・追わない・自分の心拍と相談する」ことを徹底。
ウルトラではありがちな「序盤の入りすぎ」を避けることで、後半に備える走りができました。
スタート時刻は午前7:00、気温は17℃とまずまずのコンディション。
しかし、これから気温が25〜27℃まで上昇することは分かっており、前半での無駄な消耗は絶対に避けるべき要素でした。
COROSウォッチの記録によれば、平均心拍は150bpmと理想的な有酸素ゾーンを維持。
特に20km地点のA3エイドまでは、6分30秒/km前後のペースで落ち着いて走り、身体を温める時間に充てました。
途中、コースは林道や細かな登り下りが続きますが、無理に抜かず、淡々と前に進むことに専念。
「前半でエネルギーを削らない」が今回の最大テーマです。
周囲が先行していく中でも、心拍140〜150の範囲から出ないよう常にモニタリングし、「レースが始まるのは後半から」と自分に言い聞かせていました。
シューズは今回、カーボンシューズ・Zoom Fly 6。
正直なところ、走り始めから「重さ」「沈み込みのなさ」が気になり、ピッチ走法主体の自分には少し“ハマらない”感覚がありました。
カーボンの反発をもらうには、ある程度のスピードと着地角度が必要で、前半のゆるい登りや不整地ではその特性を活かしきれず。
ただ、フォームを小さく保ち、「エネルギーをためておく」走り方に徹したことで、少しずつ慣れていったというのが正直な感触です。
35km地点のA5(皆野町役場)までは、予定どおり心拍を抑えつつ脚を温存。
ピッチも169spm前後で一定を保ち、心肺と脚に無理のないテンポを刻みました。
エイドではジェル・スポドリ・フルーツなどをしっかり補給し、胃腸への負担を抑える工夫も忘れませんでした。
結果として前半35km時点での順位は、総合35位中の53位。
数字だけ見ると平凡に思えますが、この「前に出すぎなかった選択」が、後半の追い上げを生む最大の伏線となっていたのです。
まだ「潰れていない脚」「落ち着いた心肺」「空腹感のない補給バランス」。
これらすべてを確保した状態で後半戦に突入できたことが、最終的なレース全体を支える“土台”となりました。
【レース後半】潰れてから復活へ|身体・神経・心が繋がった後半戦
ウルトラマラソンを走っていると、ある瞬間から「もうダメだ」と感じることがあります。
2025年の「みなの天空75K」で、それがやってきたのは第3の山、A8〜A9区間でした。
コース全体でも最も標高差のある登り下りが続き、日差しも強く、脚も心も削られるセクション。
右股関節の違和感、左足首の鈍い痛みが同時に出てきて、ペースは6:30〜6:40/kmまで失速。
正直なところ「もう無理かもしれない」と思った瞬間でした。
それでも、歩かずに走り続けることだけは止めなかった。
それは、過去の経験から「走っていれば、戻ることがある」と知っていたからです。
フォームを崩さず、呼吸を整え、無心で脚を前に出し続けていると、ふと脚がスッと軽くなる感覚が戻ってきました。
「あれ? 今、痛くない」——それが、身体の復活のサインでした。
面白いことに、そこからペースは一気に5:40/km前後に回復。
ゆっくり走っていたときは重く感じていたZoom Fly 6のカーボンプレートが、スピードに乗ったことで突然機能しはじめたような印象もありました。
フォームが合ってきたのか、プレートの反発が気持ちよく活き、脚が勝手に動くような感覚に。
おそらくこれは、神経系の再活性と、フォームとシューズの速度帯の一致が同時に起きた現象だったのだと思います。
そして何よりも印象的だったのが、身体が戻ると、心も戻るということ。
さっきまで「やめようか」とすら思っていたのに、気づけば前を追っている自分がいました。
景色が美しく見える。
この15kmは、自分史上もっとも“ご褒美のような区間”だったかもしれません。
ウルトラは、脚ではなく「心」そのものがゴールを目指すスポーツ。
身体に限界が来たとき、頼れるのは「走り続ける理由を知っているかどうか」です。
今回、自分を支えてくれたのは「ここで止まらなければ、また走れる」という確かな記憶と、今まで積み上げてきた走りの経験でした。
最終的に、A9→ゴールの区間では区間18位という、まさかのラストスパート。
最後まで諦めなかったことが、今回の最大の成果であり、最大の“報酬”だったと感じています。
【ウルトラマラソンはなぜ復活できるのか】痛みの種類と“脳のブレーキ”の正体
ウルトラマラソンを走っていると、ある瞬間から「もう無理だ」と思うほどの痛みが襲ってくることがあります。
それなのに、時間が経つと再び走れるようになる——そんな不思議な“復活現象”を体験したランナーも多いでしょう。
今回の「みなの天空75K」でも、第3の山で右股関節と左足首に強い痛みが出て、下りをまともに走れない時間がありました。
ところが、しばらくすると身体が軽くなり、再びスムーズに走れるように。
この「一度壊れたと思ったのに復活した」現象の正体を掘り下げてみます。
① 「治らない痛み」と「消える痛み」の違い
まず知っておきたいのは、痛みには大きく2種類あります。
① 構造的な痛み(打撲・捻挫など)
→ 筋肉・腱・靱帯・関節などに物理的な損傷が起きている状態。
この痛みは時間が経っても消えず、むしろ腫れや熱を伴うこともあります。
② 神経・代謝的な痛み(中枢性疲労など)
→ 身体が危険を察知して「これ以上無理させないため」に痛みを強めている状態。
エネルギー不足や電解質の乱れ、神経系の疲労などが原因で起こり、
補給や休息、気温の変化などによって脳が「安全」と判断すると痛みが軽減します。
② 「脳がブレーキをかける」メカニズム
ウルトラの後半で急に動けなくなるのは、筋肉の限界ではなく脳の防御反応によるものです。
これを「中枢性疲労」または「セントラルガバナー理論」と呼びます。
脳は体温上昇・脱水・エネルギー低下などを検知すると、
「危険」と判断して筋肉への出力を下げる(=痛みやだるさとして感じる)。
しかし、補給・冷却・休息などで安全が確認されると、
再び出力を許可してパフォーマンスが戻るのです。
つまり、第3の山で走れなくなったのは、
「身体が壊れた」わけではなく、「脳が守りに入った」状態だった可能性が高いのです。
③ なぜ後半で復活できたのか?
● 補給が効いて血糖値が回復した
● 日差しが弱まり、体温負荷が減った
● フォームを小さくまとめて神経系がリズムを取り戻した
こうした要素が重なり、脳が「もう走っても大丈夫」と判断したと考えられます。
その瞬間に、神経の出力制限が解除され、脚が再び動き始める——
これが「ウルトラでの復活」のメカニズムです。
一方で、打撲や捻挫のような構造的損傷がある場合は、
脳がいくら許可を出しても痛みは消えません。
その違いを見極めることが、ウルトラ後半の判断において非常に重要になります。
④ まとめ:壊れたのではなく「守られていた」
ウルトラマラソンの「復活」は、単なる根性論ではなく、身体と脳の協調反応です。
痛みを出すことで身体を守り、回復を感じると再び前へ進ませる。
それがウルトラランナーの強さの源でもあります。
今回の走りから得た教訓は、
「痛みの正体を見極めれば、まだ走れる身体はそこにある」
ということ。
次のレースでは、この“身体の声”とどう付き合うかをテーマに走りたいと思います。
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