隠れ脱水の見つけ方|爪押し3秒と尿の色はランナーに使える?熱中症との関係

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バナナぴろしバナナぴろし
公園のトイレで、こんな張り紙を見つけたんだ。「隠れ脱水症の見つけ方」だって。
りんごちゃんりんごちゃん
爪を押して色を見るの? おもしろそう! もうやってみた?
バナナぴろしバナナぴろし
もちろん。すぐ試して、問題なしだった。でも、そもそも脱水と熱中症って関係あるのか?
ナップル博士ナップル博士
別のものじゃが、深い関係があるのじゃ。そして、その爪押し、ランナーには弱点もあるのじゃよ。

脱水と熱中症は別のものですが、つながっています。体の水分が減ると汗をかきにくくなり、熱が逃げず、熱中症に近づきます。ただし、水を飲んでいても暑すぎれば熱中症になります。

張り紙の2つのチェックは便利ですが、万能ではありません。爪押しは「遅ければ注意」のサインで、「速いから脱水していない」とは言えません。尿の色は日常の目安として優秀ですが、走った直後の色は遅れて変わります。

この記事では、52歳の筆者(バナナぴろし:サブエガ=2時間49分38秒)が実際に張り紙を試したうえで、論文と公的な資料を調べ、ランナーの脱水の見つけ方と水分のとり方をまとめます。

隠れ脱水とランナー(結論)
  • 脱水と熱中症は別物だが関係がある:脱水が進むと体の熱が逃げにくくなる
  • 爪押しは過信しない:寒さと年齢で遅くなり、脱水していても遅くならないことがある
  • 尿の色は1日の目安に:便器の中では薄まる。走った直後は遅れて変わる
  • コーラ色・赤・茶色の尿はすぐ受診:筋肉が壊れている病気などの恐れがある
  • 飲みすぎも危険:ボストンマラソンの完走者の13%が低ナトリウム血症だった
  • いちばん確かなのは体重:走る前後の体重で、自分の汗の量が分かる
この記事でわかること
・張り紙の「爪押し」と「尿の色」の中身
・脱水と熱中症の関係
・爪押しテストが当てになる場面、ならない場面
・尿の色の正しい見方と、すぐ病院へ行く色
・水分が足りないと走力は落ちるのか
・飲みすぎの危険と、ちょうどいい量の決め方

公園のトイレで見つけた「隠れ脱水症の見つけ方」

張り紙には、2つのセルフチェックが書かれていました。1つ目は爪です。

公園のトイレの張り紙。隠れ脱水症の見つけ方、爪押しでセルフチェック。親指の爪をつまみ、離して3秒以上で色が戻らなければ脱水症の可能性
公園のトイレの張り紙(爪押し)。つまんで離し、ピンクに戻るまで3秒以上なら脱水症の可能性。

2つ目は尿の色です。5段階の色と、そのときに飲む量が書かれています。

公園のトイレの張り紙。尿の色でセルフチェック。5段階の色と飲む水分量の表
公園のトイレの張り紙(尿の色)。色が濃いほど、飲む量が増える。
張り紙の色張り紙の指示
①いい感じ。普段どおりに水分をとる
②問題はないが、もう少し(コップ1杯程度)
③1時間以内に約250ml。屋外や汗をかいていれば500ml
④今すぐ250ml。屋外や汗をかいていれば500ml
⑤今すぐ1000ml。これより濃い、赤や茶色が混じるときはすぐ病院へ

筆者も爪を押してみました。結果は問題なしです。……と、ここで安心してよいのでしょうか。調べてみると、ランナーが知っておきたい落とし穴がいくつも出てきました。

まず言葉の確認です。「隠れ脱水」(かくれ脱水)は、済生会の解説によると、脱水症になりかけているのに、本人も周りも気づかず、対策がとれていない状態のことです。なんとなくだるい、疲れやすいといった小さな変化がサインになります。

脱水と熱中症の関係|同じものではないが、つながっている

脱水熱中症
何が起きている体の水分と塩分が足りなくなる体に熱がこもり、体温の調節がうまくいかなくなる
主な原因汗、飲む量の不足、発熱、下痢暑さ、湿度、運動で作られる熱
暑くなくても起きるか起きる(冬の発熱や下痢でも)涼しい日でも、激しい運動では注意
水を飲めば防げるか防ぎやすい飲んでいてもなることがある

2つをつなぐのは、体の中の水です。走ると体に熱がたまり、体は皮ふに血を送って、汗で熱を逃がします。脱水で血の中の水分が減ると、この仕組みが弱くなります。汗と血の流れで冷やせなくなり、体温が上がりやすくなるのです(環境省 熱中症環境保健マニュアル)。

左は体の中のタンクに水がたっぷりあり汗で涼しく走るバナナぴろし。右はタンクの水が減って熱がこもり、ふらふらするバナナぴろし
水が足りていれば汗で熱を逃がせる。減ると、熱がこもりやすくなる。

ただし、水さえ飲めば大丈夫ではありません。気温や湿度が高すぎると、汗が乾かず、熱を逃がせません。だから日本スポーツ協会の熱中症予防運動指針は、暑さ指数(WBGT)31以上を「運動は原則中止」としています。

日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024には、最も重い「IV度」が加わりました。深部体温が40.0℃以上で、呼びかけなどへの反応が強く悪い状態です。命に関わるので、すぐに体を冷やす必要があります。

バナナぴろしバナナぴろし
俺は夏に強いほうだと思ってる。暑くてフラフラになったことはあるけど、あれが脱水だったのかは分からないんだよな。
りんごちゃんりんごちゃん
でも、野辺山では熱中症で吐きながら走ってたよね? 5月だったのに!
ナップル博士ナップル博士
フラフラの原因は、走っている本人には区別しにくいのじゃ。だから「強いほう」と思っている人こそ、早めに止まれるようにしておくのじゃ。
5月の野辺山で40km手前から熱中症になった実録:野辺山ウルトラマラソン100km攻略

爪押しテストの実力|3秒の基準とランナーの落とし穴

爪押しの正式な名前は毛細血管再充満時間(CRT)です。救急や小児科で、血のめぐりを見るために使われてきました。

昔から「2秒以内が正常」と言われてきましたが、Schriger・Baraff(1988)が健康な人約300人を測ると、次のことが分かりました。

測った人戻るまでの時間(中央値)分かったこと
子どもの女子・男子0.7秒・0.8秒速い
成人の男性1.0秒2秒の基準だと、子どもと成人男性の4%が誤って「異常」と出る
成人の女性1.2秒正常の上限は2.9秒にすべき
高齢の女性・男性1.5秒・1.8秒正常の上限は4.5秒にすべき
成人20人(14℃の水に手を1分)1.3秒→2.9秒冷えるだけで2倍以上に遅くなる

つまり、冬の朝に冷えた手で測ると、脱水がなくても遅く出ます。張り紙の「3秒」の根拠は張り紙には書かれていませんが、2秒より少しゆるい基準です。

では、脱水を見つける力はどうでしょうか。Fleming ほか(2015)のまとめでは、嘔吐や下痢の子どもの5%の脱水に対して、CRTの特異度は89〜94%と高い一方、感度は0〜94%と研究によってバラバラでした。かみくだくと、次のようになります。

爪押しの読み方
  • 遅い:何かあるかもしれないサイン。手が冷えていないかも確かめる
  • 速い:「脱水していない」の証明にはならない
  • 大人のランナーの研究:今回の調べでは見つからなかった。上の数字は主に子どものもの

走っている最中は、体が熱を逃がすために皮ふへ血を送っています。そのため、水分が減っていても爪の色はすぐ戻るのではないか、と筆者は考えています(ここは研究で確かめられた話ではなく、推測です)。

バナナぴろしバナナぴろし
なるほど。俺の「問題なし」は、「少なくとも今は悪いサインは出ていない」くらいに受け取るのが正解か。

尿の色チェックの見方|便器の中では正しく見えない

尿の色のほうは、スポーツの世界でも使われています。Armstrong ほか(1994)は、尿の色が尿の濃さ(比重・浸透圧)と強く結びつくことを示し、現場で使える目安だとしました。実験室のような正確さはありませんが、手軽です。

ただし、見方にコツがあります。米国アスレティックトレーナー協会の指針(2017)と研究から、注意点を並べます。

注意点理由
便器の中で判断しない便器の水で薄まる。透明な容器にとり、明るい場所で見る
走った直後の色を信じすぎない急な脱水では、尿の変化が遅れる(Popowski ほか 2001)
1日の中や、日をまたいで見るのどの渇き・トイレの回数・尿の色を合わせて見るのがよい
ビタミン剤を飲んだ日は当てにしないビタミンB2のサプリや栄養ドリンクで、尿が濃い黄色になる

公園のトイレで便器をのぞいても、正しい色は分かりません。おすすめの使い方は、朝のトイレで「いつもより濃いな」と気づくことです。レース前日や当日の朝に濃ければ、少しずつ飲んでおきます。

赤・茶色・コーラ色の尿は、すぐ病院へ

張り紙の「赤や茶色が混じるときは病院へ」は、ランナーにとても大事な一文です。同じ指針は、チャートでいちばん濃い色(コーラのような色)について、筋肉が壊れて色素が尿に出ている状態(横紋筋融解症)や腎臓の不調を示すので、すぐ受診するよう書いています。走る衝撃で血尿が出ることもありますが、見た目では区別できません。レースのあとに濃い茶色の尿が出たら、水を飲んで様子を見ないで受診してください。

りんごちゃんりんごちゃん
レースのあとの尿って、見たことなかったかも。これからは見るようにするね!

脱水すると走力は落ちる?|「体重の2%」の説と反対の研究

「体重の2%の水分が減ると、持久力が落ちる」。ランナーならよく聞く話です。Cheuvront・Kenefick(2014)も、2%以上で持久力が下がるとまとめています。一方で、これに反対する研究もあります。

研究調べたこと結果
Goulet(2011)自転車のタイムトライアル5研究・39人のまとめ体重が平均2.2%減っても記録は落ちなかった(+0.06%)。のどの渇きに合わせて飲むと、渇きより少なく飲むより記録がよかった
Goulet(2013)15研究・122人のまとめ強さを固定した実験では1.91%低下。タイムトライアルの条件では差なし
Wall ほか(2015)自転車選手10人。自分の水分状態を知らせずに25km体重の-3%でも記録に差なし。直腸の温度だけ-3%のほうが高かった
Beis ほか(2012)トップランナー10人の13レースの分析2009年ドバイマラソンの優勝者は体重が9.8%減っていた

おもしろい結果ですが、そのまま市民ランナーの話にはできません。Goulet と Wall は自転車の実験で、Beis は世界のトップ選手です。2時間6分で走る選手と、4時間かけて走る市民ランナーでは、暑さを浴びる時間がまったく違います。米国の指針は今も、運動の終わりの体重の減りを2%未満にすることをすすめています。

筆者の結論はこうです。2%を超えたら即アウトではありません。でも、市民ランナーの安全の線として2%は覚えておく。体重60kgなら1.2kgです。

飲みすぎも危険|ボストンマラソンの13%が低ナトリウム血症

脱水が怖いからといって、たくさん飲めばよいわけではありません。Almond ほか(2005)は、2002年のボストンマラソンの完走者488人の血液を調べました。

項目結果
血のナトリウムが薄くなった人(135mmol/L以下)13%
危険なレベルの人(120mmol/L以下)0.6%
なりやすかった人①レース中に体重が増えた人(オッズ比4.2)
なりやすかった人②4時間以上かかった人(3時間30分未満と比べてオッズ比7.4)
個別に見て関連があったこと3リットルより多く飲む、1マイルごとに飲む
関連がなかったこと飲み物の種類(スポーツドリンクでも水でも差なし)

ポイントは、走っているのに体重が増えるのは飲みすぎということです。そして、ゆっくり走る人ほど、飲む時間と回数が増えて危険になります。スポーツドリンクなら安心、というわけでもありません。

シーソーの左にからからのコップとぐったりしたバナナぴろし、右に水のあふれるバケツを抱えたバナナぴろし、真ん中でナップル博士がちょうどいい量のコップを持っている
少なすぎても、多すぎてもいけない。ちょうどいい量は人によって違う。

張り紙の「今すぐ1000ml」は、日常の中で濃い尿が出た人向けの目安と考えるのがよさそうです(張り紙に「すぐに報告して下さい」とあるので、もとは職場向けの資料かもしれません)。走ったあとのランナーが一気に1リットル飲むのはおすすめできません。少しずつ、何回かに分けて飲みましょう。

バナナぴろしバナナぴろし
飲まなくてもダメ、飲みすぎてもダメか……。
ナップル博士ナップル博士
そうじゃ。だから自分の汗の量を知るのが近道なのじゃ。

ランナーの水分のとり方|体重で自分の汗の量を知る

汗の量は人によって大きく違います。そこで米国スポーツ医学会(2007)も米国の指針も、走る前後の体重を測って、自分の量を知ることをすすめています。

汗の量の出し方
  • 汗の量(L)=走る前の体重(kg)-走ったあとの体重(kg)+飲んだ量(L)-尿の量(L)
  • 1時間の汗の量(L)=汗の量÷走った時間
  • 例:60.0kg→59.5kg、飲んだ量0.2L、尿なし、1時間のラン=1時間に0.7L

測るときは服を脱ぎ、汗をふいてから乗ります。気温でも汗の量は変わるので、暑い日と涼しい日で1回ずつ測ると、感覚がつかめます。

レース中の量は、米国スポーツ医学会の目安が1時間に0.4〜0.8Lです(Beis ほか 2012が紹介)。トップ選手の実測も平均0.55Lでした。汗の量が分からないときは、のどの渇きに合わせて飲むのが、飲みすぎを防ぐ安全なやり方です(米国の指針)。

いつやること
レースの数時間前までふだんの食事と水分に足して、早めに飲んでおく(米国スポーツ医学会)。直前の一気飲みは避ける
レース中給水所で少しずつ。のどの渇きを基本に、体重が増えるほど飲まない
レース後減った分を、食事と一緒に少しずつ戻す
寒い日のどが渇きにくい。4℃の環境では渇きの感覚が最大40%弱まった(Kenefick ほか 2004)
50代以降のどの渇きを感じにくくなる人が多い(全員ではない=米国の指針)。自分の量を知っておく
走っていて危ないサイン

ふらふらする、頭が痛い、吐き気がするときは、走るのをやめて日かげで体を冷やします。自分で飲めない、受け答えがおかしい、けいれんしているときは、すぐに救急車を呼びます(環境省)。ぐったりしている人に無理に飲ませてはいけません。

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52歳の筆者の体調管理|レース前500mlと5kmごとの給水

筆者が心がけているのは、シンプルな2つです。

いつ筆者のやり方
レース前500mlを飲む
レース中5kmごとに給水する

これを計算してみます。フルの給水を5kmごとに8回、紙コップ1杯を150mlとすると(150mlは計算のための仮の量です)、合計で約1.2Lです。3時間30分で走ると、1時間に約340mlになります。目安の0.4〜0.8Lより少し少なめで、飲みすぎの心配はあまりありません。涼しいレースならこれでよさそうですが、暑い日はもう少し足したほうがよさそうです。

マラソンは、当日の気合いより、体調の管理で決まるところがあります。筆者は今回、足利のハーフを微熱と足首の張りでキャンセルしました。発熱や下痢のときは、走る前から体の水分が減っています。そこで無理に走れば、脱水と熱中症に近づくだけです。

バナナぴろしバナナぴろし
張り紙のおかげで、体の声を聞くクセがついた。爪と尿と体重。走る前に自分の体を見るのも、練習のうちだな。
りんごちゃんりんごちゃん
やっと体調管理に目覚めたね!

隠れ脱水と熱中症についてよくある質問

脱水と熱中症は関係ありますか?

あります。脱水で体の水分が減ると、汗や皮ふの血の流れで熱を逃がしにくくなり、熱中症に近づきます。ただし別のものです。脱水は冬の発熱や下痢でも起き、熱中症は水を飲んでいても暑すぎれば起きます。

爪を押して3秒以内に戻れば、脱水ではありませんか?

言い切れません。子どもの研究では、脱水を見つける力(感度)は0〜94%と研究によって大きく違いました。遅いときは注意のサインですが、速いから大丈夫とは言えません。手が冷えると、脱水がなくても遅くなります。

尿の色はいつ見ればいいですか?

1日の中や、日をまたいで見るのが向いています。走った直後は変化が遅れます。便器の中では水で薄まるので、正しく見るなら透明な容器にとり、明るい場所で見ます。ビタミン剤を飲んだ日は濃い黄色になるので当てになりません。

走ったあとに尿が茶色やコーラ色になりました。どうすればいいですか?

水を飲んで様子を見ないで、すぐに病院へ行ってください。筋肉が壊れて色素が尿に出ている状態(横紋筋融解症)や、腎臓の不調の恐れがあります。

マラソンではどのくらい水を飲めばいいですか?

人によって違います。米国スポーツ医学会の目安は1時間に0.4〜0.8Lです。走る前後の体重で自分の汗の量を調べるのが確実です。分からないときは、のどの渇きに合わせて飲みます。走って体重が増えるのは飲みすぎです。

涼しい秋や冬でも脱水しますか?

します。寒いとのどが渇きにくくなり、4℃の環境では渇きの感覚が最大40%弱まった研究があります(Kenefick ほか 2004)。涼しい日でも給水所を飛ばさず、一口は飲むようにしましょう。

まとめ|爪と尿と体重で、自分の体を見る

  • 脱水と熱中症は別のものだが、脱水が進むと熱が逃げにくくなり、熱中症に近づく
  • 爪押しは「遅ければ注意」のサイン。寒さでも遅くなり、速くても安心はできない
  • 尿の色は1日の目安に。便器の中では薄まり、走った直後は遅れて変わる
  • 赤・茶色・コーラ色の尿はすぐ病院へ
  • 飲みすぎも危険。走って体重が増えたら飲みすぎ
  • 走る前後の体重で、自分の汗の量を知る。分からないときはのどの渇きに合わせる

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